■第二回瀬底サンゴ礁セミナー | |
開催日時 | 2010年3月8日(月) 18:30-19:30 |
開催場所 | 琉球大学瀬底研究施設講義室(沖縄) |
内容 |
【第二回瀬底サンゴ礁セミナー】 日時:2010年3月8日(月)、18:30-19:30 場所:琉球大学瀬底研究施設講義室 講演者:入江貴博(琉球大学熱帯生物圏研究センター) 「温度の時間的・空間的変動と海水の酸性化に対する海 洋生物の生活史適応:野外調査・飼育実験・最適性モデルの解析を用いた統合的アプローチ」 要旨:海洋酸性化は海洋生態系と全地球炭素循環に対する散在的な最大懸念事項のひとつである。石灰化を行う 生物の中でも、円石藻類は深海への炭素輸出フラックスという点で重要な役割を担っているため、研究者の注目 を集めてきた。現在、実証研究者は海水の酸性化に対する表現型の可塑的応答を評価することに労力を注いでお り、進化的な応答への考慮はそのアプローチから欠如している。従って本研究では円石藻類の生活史が示す進化 的応答を評価するために、最適性モデルを構築・解析した。広く信じられている予測とは対照的に、このモデル は酸性化に起因するより高いコスト(高い石灰化コスト・外骨格溶解の加速・死亡率の上昇)の下では、自然選 択がより石灰化率の高い外骨格を作るような生活史を好むことを予測した。その結果として、1回のブルーム中 に結晶化される炭酸カルシウムの総量(∝深海へ輸出される炭素量)も増大する。これらの知見は、海洋酸性化 が進行するにつれて、より高い炭素固定能力を伴って海洋生物の石灰化率が上昇する可能性を示唆する。従って 本研究では、海洋酸性化の問題に現在従事している科学者は生物の進化動態を考慮すべきであることを強調した い。 後半は、第57回日本生態学会大会での企画集会「生活史がもたらす適応進化」での講演内容を紹介する。特に決 定成長の分類群を対象とする研究者の間では、低い温度環境で育った外温動物が長い成長期間を経て、より大き な体サイズで成熟するという反応規範の適応的意義が古くから議論の対象となってきた。この温度反応規範は「 温度-サイズ則」(temperature-size rule)と呼ばれ、分類群の壁を越えて広く観察されている。この経験則が自 然選択によって変更されざる拘束(constraint)の産物であるという可能性は、主に昆虫を対象とした実証研究に よって繰り返し否定されてきた。その一方で、この普遍的な反応規範を進化的に支える適応的意義を説明する数 多くの(相互に背反しない)仮説が提唱され、百家争鳴の様相を呈している。本講演ではまず、これまでに提唱 された代表的な仮説とその検証事例を紹介する。温度-サイズ則に関する実証研究はこれまで主に昆虫を材料と して進められてきたという経緯がある。従って後半では、昆虫以外の分類群に対する研究の一例として、潮間帯 に棲む決定成長の腹足類(有殻の軟体動物)を対象とした私自身の研究成果を紹介する。貝殻の材料であるCaCO3 は温度が低くなるほど結晶化に要するコストが増大するため、石灰化を行う外温動物は温度-サイズ則に従わな い可能性が指摘されている。それに関わらず、対象とした種(ハナビラダカラ Monetaria annulus)は温度-サ イズ則に従うことが飼育実験によって明らかにされた。この事実を前提として、陸上生物とはまったく異なる生 態学的背景を有する海洋ベントスが温度-サイズ則に従うことの適応的意義を突き止めることを目的とした現在 進行中のアプローチについて述べる。 瀬底研究施設へのアクセスはこちらからご覧になれます。 http://www.tbc.u-ryukyu.ac.jp/sesoko/home.html#access 事前の参加申し込みは不要です。平日及び遠方での開催で恐縮ではございますが、多くの方々のご参加をお待ち しております。 |